ガラスの棺 第8話


携帯電話が鳴り、表示を見るとかつての婚約者からだった。
こんな夜中になんだろう。
スザクの計画では、彼女たちの協力を得て陛下のご遺体をしばらく隠すはずだが、そこで何かトラブルでも起きたのだろうか。
作業の手を止め、ロイドは通話ボタンを押した。

「はいもしもし?」
『お久しぶりです、ミレイ・アッシュフォードです』
「おやおやミレイくん久しぶりですねぇ、5年ぶりかなぁ」
『はい。あの、こんな夜中に申し訳ありません。実は折り入ってロイドさんに相談したいことがありまして・・・』

やはり何かトラブルか。
さてさて、困ったなぁとロイドは頭を掻いた。
これらの通信は傍受されている可能性がある。
なぜなら悪逆皇帝に脅されたとはいえ協力していた科学者だから。
もしかしたら、あれは全て演技で、悪逆皇帝側のスパイとして潜り込もうとしていた可能性も、悪逆皇帝の立場が悪くなったから寝返った可能性も当然考えているだろう。
だから、そんなロイドにスザクいやゼロが直接掛けてくるわけにいかないので、彼女を介したのだろう。かつての婚約者という関係を利用して。

「僕に?まあ、僕に答えれることなら相談ぐらいのりますけどねぇ」

あからさまに面倒臭いという言い方でロイドは答えた。
傍でキーボードを叩いていたセシルとニーナは眠そうにしていた表情を改め、警戒するような視線をロイドに向けた。この部屋には監視カメラも盗聴器もない。
監視と言っても、外部との連絡・・・携帯の会話を傍受されるぐらいだ。
だからロイドは視線と手振りで作業をやめるよう示した。
何かあったことだけは、それで二人も理解した。

『実は、最近おもしろい化学反応を示すオモチャを友人からもらったんですが、その仕組みがわからなくて・・・ここ数日ずっと調べていたんです。でも全っ然原理がわからなくて・・・もしお時間があるようでしたら、ぜひ教えていただけないかと・・・』

気になって仕方が無いんです。
ミレイは心底申し訳無さそうな、こんなくだらない理由ですみませんと平伏しているような声で言った。
ふむ、とロイドは目を細めた。
そんな理由でこんな時間に電話を掛けてくる人じゃない。
しかも5年間やり取りのなかった人物だ。
科学者というなら、まず友人であるニーナに連絡が行くべきなのに、ロイドに。
ニーナも盗聴されていることを考えれば、動揺し話せなくなる可能性のあるニーナより、ロイドの方がいいと踏んだのか・・・。
・・・化学反応。
陛下の遺体に何かあったのだろうか。
ロイドを呼び寄せなければいけない何かが。

「なるほど、それは興味深いお話ですねぇ。僕はそういうものには今まで興味なかったからどんなものか想像もできませんが、今後の研究のヒントになるかもしれない。いえ、じつはですね、最近研究に躓いていまして、なにか気晴らしになることはないかと思っていたんですよ」

市販のオモチャ。
もしかしたらなにかヒントをくれるかもしれないですね。

『そうなんですか?ならぜひ、お時間のあるときにアッシュフォードまでお越しください』
「アッシュフォードのお屋敷の方ですか?僕としては悪逆皇帝が住んでいたあのクラブハウスをもう一度見せて欲しいと思ってたんですよ。僕達を脅迫したあの悪魔が、どんな生活をしていたのか、観察してみたいと思いましてね」

スザクが使うとしたら学園のあのクラブハウスだろう。
アッシュフォードの邸宅になど行くはずがない。
ミレイは既に卒業生だから、学園で、と言う流れもおかしい。
だからそれらしい理由を付けてそちらに行きたいと伝えると、ミレイはすぐに乗ってきた。

『なら、学園の方に来てください。クラブハウスにも入れるよう手配いたしますので』

その後いくつか言葉を交わした後、ロイドは通話を切った。

「ロイドさん・・・」

セシルは不安げにロイドを見た。
恐らく彼女もルルーシュの遺体に何かあったと感づいているのだろう。

「恐らく、陛下のご遺体に何かあったんだろうね。場合によってはここを破棄して、身を隠すことになるかもしれないね」

ルルーシュの最後の命令、ミッション・アパテ・アレティアがあるから、悪逆皇帝は敵だという立場にずっと身を置いていたが、場合によっては陛下に与えられた最後のミッションを破棄せざるをえないかもしれない。
だがそれもいいと、ロイドたちはずっと考えていた。
ルルーシュの願った世界を壊した者達の協力などしたくもないから。

「では、そのようにプログラムを」

ニーナは、すぐに特殊コマンドを撃ち込んだ。
これで一定期間アクセスがなかった場合や、アクセス権を持つ三人以外が起動した場合、強力なウイルスが中のデータを食い散らかす。
バックアップは先にとり、これは持っていくことにする。

「緊急時用の荷物は用意しているよね?それを持ってミレイくんの所へ行こうか」

我らが陛下の御下に。
ロイドは晴れやかな笑顔でそう告げた。

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